IDEA and Players

ベンチャー企業で働く変なエンジニアが勝手なことを書きまくるブログ

リバース・ブランディングとUI/UXと伝書鳩とおじさんの話

どうも風邪をひいたらしく頭がぼーっとするわ、体の節々が痛むわ、という春の嵐的な季節感を体中で感じていた今日この頃。
仕方がないので、ヤンミ・ムンの「ビジネスで一番、大切なこと」を読みながらゴロゴロしていたら、IKEAの話が出てくるじゃありませんか。

IKEAと言えば、お客がバカでかい家具を自力で組み立てなければならない、というアレです。
我が家でも何度か家具を買いましたが、壁いっぱいの巨大な本棚を私一人で汗水垂らしながら組み立て、その夜、全身を襲った筋肉痛と言ったら何とも格別な味わいでございました。

さて、IKEAみたいな企業をリバース・ブランドと呼ぶそうですが、これをココ最近、チマタをにぎわすUXD(ユーザエクスペリエンス・デザイニング)と関連して考えるとなんとも面白い。何しろUXDの基本は「おもてなしの心」と言われているんですからね。おもてなし、という発想から言うと、お客に家具を組み立てさせて筋肉痛にさせるIKEAってどうなのよ、と直感的には思う訳ですが、でもIKEAを支持しているお客さんがゴマンといらっしゃる。

やはり一部には強烈な不満を覚える客もいるようですが、それでもIKEAには独自のブランド価値があり、かつ熱心な支持者を獲得することに成功しているのは間違いない訳で。

UI/UXと言うと、本当はいろいろなレイヤーを分けて議論しなければならないはずで、深いレイヤーでは「ユーザにどんなサービスイメージを伝えるのか」「どんな体験を提供するのか」みたいな割と本質的な問いになるので、ブランディングとかマーケティング抜きでは語れないところがあるわけですよ。
一方で、浅いレイヤーだと製品の「見映え」「使い勝手」という風に、デザインとかUI設計といった領域になり、どっちかというとUI/UXって言うと、ここら辺にフォーカスされがち。

でも、それだけだと表面的な付加価値でしかなくて、サービスの本質的な価値とはなりえないんですよね。
そりゃあ、もてなし上手の仲居さんさえいれば、旅館も料理も温泉もいらない、とはならんのですから。

サービスの本質的な価値できっちり競合との差別化ができていないと、ただUI/UXを頑張ります、と言っても仕方がないわけですよ。むしろ皆で頑張れば頑張るほど、業界全体が過剰適応して、結局はコモディティ化の泥沼に突っ込んでいくことになりかねない。

当ホテルのベッドはカールトンよりフカフカです。
いやいや、こちらはオーシャンビューが楽しめます。

コモディティ化の悲しいところは、企業側がどれだけ血のにじむような努力して、熾烈な競争を勝ち抜こうとしても、むしろ結果的には業界全体に対する顧客側の感動がどんどん薄まってしまう、という点に尽きると思うんですよね。そして顧客は、個々の企業とかサービスとかに注意を払わなくなり、サービスのカテゴリ全体に対して自分のポジションを決めてしまう。そうなると、サービスの作り手がどれだけ声高に自分たちの価値を主張しても、顧客は目もくれない。
アルプスの水に、六甲の水。天然水です、深海の水です、酸素入りです、ミネラルが多いです云々。

さて、ここまで考えて、自分の専門分野であるWebやアプリ領域を振り返ってみると、どうしても気づいてしまうことがあるんですな。
つまりは、当然ながら我々は自分たちのサービスの"形"として、Webアプリやらスマホアプリやらを考えるわけですが、その時点ですでにコモディティの沼に片足突っ込んでいるわけですよ。
もうね、この世にどれだけのWebサービス、あるいは、アプリがあるのか、と。
ぼくたちのアプリ、あっちのアプリより使い勝手がいいんです!ってのはもうその時点で勝負の仕方を間違えている気がしてなりません。

そこで、伝書鳩ですよ。
これから新しいサービスを発想する場合、まずサービスの形は伝書鳩にすると決めておくといいんじゃないかと。インターネット不要、電気代、および通信料不要。くるっくー。
たまーに鳩が道に迷ったり、豆を要求したりと、多少は不便な点もあるかもしれませんが、それでもユーザが使ってくれるほどのサービスをまずは考える。

もちろん伝書鳩ってのはモノのたとえ。
たとえば発想の仕方として、鳩の代わりにおじさんをユーザの元に派遣するという形でもいいのですよ。
そのおじさんがユーザの要求に応じて、調べ物をしたり、質問に答えてくれる、とかそんな感じ。まあ、たまーにおじさんが道に迷ったり、豆を要求したりと、多少は不便な点も(以下略)

そうやってサービスの価値を考えてから、その価値の伝送路を、Webアプリにするか、スマホアプリにするか、伝書鳩にするか、おじさんにするか、もう一度考え直すと。

スマホ、スマホと言われているけども、今そこらにあふれている製品の"形"から出発していたら、新しいモノなんて生まれませんよねー。
まずは自分の中で時計の針をいったん戻し、ほとんど何もないところから発想しなおすと、画期的なモノが生まれるんじゃなかろうか、とつらつら考えた春の夕べでありました。
どっとはらい

ビジネスで一番、大切なこと 消費者のこころを学ぶ授業

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