IDEA and Players

ベンチャー企業で働く変なエンジニアが勝手なことを書きまくるブログ

Startup Weekendは起業家の夢を見るか? 第二日目

前回の続き。

Startup Weekend Tokyo, May 2013、二日目の朝。
目を覚まして真っ先に脳裏によみがえってきたのは、いい年をした大の男たちが「秘密結社、秘密結社」などと浮かれ騒ぎながら、笑い転げていた昨晩の自分たちの姿でございます。
だって、あなた、秘密結社ですよ?

ふつーだったらここで我が身を恥じるあまりに思わず出家して深山に分け入り滝に打たれ南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏と題目を繰り返しつつもついには開眼・悟りの境地に達しすべての煩悩を消して残りの人生を平穏無事・泰平自若・色即是空で過ごしてしまいそうな勢いですが、
当然ながら私はそこまで人間が練れておりません。

ルンルン気分で渋谷の会場に向かった次第ですが、今考えてみると次の日には誰もこない、ということも十分にありえたわけですよ。
一晩過ぎたらチームのみんなが我に返って、「やべえ! オレ、秘密結社なんてやってる場合じゃねーよ! 人生にはもっと大切なものがあるんだあーっ!」と思ったとしても、むしろそれは人として当然だと思うのです。

それなのに、元気いっぱいの顔してチームメンバーが続々と集結! まったく、君らには人としての恥じらいがないのかよっ!!

しかし、一名はとうとう姿を見せることはなく、人としてのごくまっとうな苦悩を抱え、山に旅立ったものと思われます。
まだ滝の水は冷たかろうに・・・。
彼の人生に幸多かれと祈るばかりです。

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※チーム・マンダラ。人としての羞恥を忘れ、この笑顔である

チーム!チーム!チーム!

冗談はさておき。
以前のブログでちょっとだけ書きましたが、二日目のスタートの際、私はチームのみんなに三つのルールを提示しました。

すなわち、

ルール1 お互いをファーストネームか、ニックネームで呼び合うこと。
ルール2 つねにアイデアの面白さを追求する姿勢を捨てないこと。
ルール3 「チームこそが成果」という共通認識を持つこと。

というルールです。
特に三番目は重要で、私はこれまでの経験から、スタートアップにとって唯一必要不可欠な資源は"チーム"ではないか、と強く意識するようになりました。

スタートアップでは当然、資金やら知名度やらとその他のあらゆる資源が不足しているのが常ですけども、スタートアップの活動の根幹を支えるものは結局チームの力です。

そしてチームとは、単にスキルの組み合わせだけで作られるものではありません。
信頼とか友情というような、なんともダサくて、人間くさい精神的なつながりも同じくらい重要だと思うんですよ。
というのも、スタートアップは必ず何かしらの失敗や苦難を経験しなければならないからです。
成功できるから一緒にいるのではなく、失敗・苦難を前にして、なお、それを一緒に乗り越えることができるか、というのはチームにとって大事なテーマだと思います。

そんなわけで、今回のStartup Weekendでは優勝できるかどうかというのは最初から眼中になく、(それはそれで問題な気もするけども)
ともかくもこの三日間、仲間と一緒に笑ったり、議論を戦わせたり、「どうしよー」と頭を抱えたりしつつ、でも最後にはチームで考え、行動するってことはこういうことなんだってことが仲間たちと共有できたらいい、と思っていたのですよ。

まあ、それが上手くいったかはまた後で書くとして。

秘密結社の秘密

さて、秘密結社をコンセプトにしたサービス開発、ということで、そもそも秘密結社ってどういうものなの?という話になりますよね。ええ、我々もそうなりました。


※オレたちの頭の中の「秘密結社」は大体こんな感じ

メンバーの一人、真空竜巻蹴りのタロこと、タロさんがリサーチしたところによれば、秘密結社とは以下の三つの条件のうちいずれかを満たすものを言うのだそう。すなわち、

①存在が秘密
②活動が秘密
③メンバーが秘密

真っ先に議論で浮かび上がったのは、そもそも秘密結社は集客できるのか、という根本的かつ超重要な問題でした。そりゃあそうだ。

ちょっと秘密結社の集客方法についてシミュレーションを脳内で繰り広げてみると・・・

①「存在が秘密」パターン

俺「すいませーん、ちょっといいですか?」
客「はい、何でしょう?」
俺「・・・・・・・・・・・・(秘密なので何も言ってはいけない)」

うん、これは絶対ムリ!!

②「活動が秘密」パターン

俺「すいませーん、ちょっといいですか?」
客「はい、何でしょう?」
俺「あの有名なAさんやBさんもいるコミュニティに参加してみたいと思いませんか?」
客「へー、何をやるコミュニティなんですか?」
俺「秘密です (キッパリ)」

・・・うーん。
この場合、お客にはそれなりの興味を持ってもらえそうですが、そもそもコミュニティ内にある程度のネームバリューを持った人が存在しないとワークしそうにありません。
で、その人たちをどうやって引き込むかと言うと・・・ハイ、消えた!

③「メンバーが秘密」パターン

俺「すいませーん、ちょっといいですか?」
客「はい、何でしょう?」
俺「とあるコミュニティに参加したいと思いませんか?」
客「どんなコミュニティなんですか?」
俺「参加するメンバーについてはお話しできませんが、ピ───(放送禁止音)なことをするコミュニティです」
客「・・・・!!!!(声にならない叫び)」

うん、これだ! 我々が進む道はこのパターン以外にありえないっ!
しかしながらこの場合、どんなことをやるのかが大変重要なテーマになるわけです。
まさか本当に放送禁止的なことをやっていいはずもなく、と言って平凡なことをやってもそもそも企画としては全然面白くないのですよ。
じゃあ、どうするか!?
思わず首をかしげるチーム一同。
さーて、困った!

(ちょっとだけ)反社会的で行こう!

さて、このときチーム内の議論もやたらと真面目な方向に流れそうになりました。
つまり、みんなでジョギングするとか、勉強するとか、いかにも健全健康、デキスギ君的優等生風なアイデアを話し出したのですよね。
なんなのだ、君たち! そんなリア充全開のアイデアを出したりして!

秘密結社を一緒にやろうって言ったのに、今さら真人間に戻るつもりかよっ!!

あーでも、この流れ。なんだか見覚えがある展開です。
前回のチームも、やはり一度はこんな風に「わりと」実現できそうなアイデアを考えようとしたのでしたっけ。
まったく、なんというデジャヴュ。

そういった現実的な発想はとても大事だと思うし、かつ、本来的に人間にとって必要な思考だとは思うのですが、安易な最適解に陥ると、当然、新しいアイデアなんて出てこないと思うのですよ。

まあ、アイデアなんてのは大体「うわ、これ新しい! すっげーイケてる! 俺様グレートォォォォオオオオッッ!!」って思っているのは100%自分だけで、とっくの昔にもっと頭のいい人が鼻クソほじりながら5分くらいで考えたりしているものです。

そんなことは百も承知の上で、それでもなお、自分の実現したい価値感や世界観に対して忠実に、かつ、自分自身が面白い、と思えるアイデアを出し続けることが大事だと思うのですよ。
第一、当たり前の論理を積み重ねてたどり着ける場所には、もうとうの昔に他の誰かがたどり着いていて、ちゃんと居場所を占めているはずです。そこに今さら私たちが突っ込んでどーなる?

私はルール2「つねにアイデアの面白さを追求する姿勢を捨てないこと」を皆に思い出すように促してから言いました。「ちょっとだけ、反社会的で行こう! 少しくらい他人が眉をひそめるくらいのこと、人を驚かせるようなことをやったろう!」

そうしたらチームの皆が、いかにも共犯者然としてニヤリと笑いました。
少しばかり反社会的なことをやる、と決めたら、妙な共犯者意識がチームに芽生え始めたんですよ。まったく皆いい年をした大人のくせにw
ま、みんな昔は悪ガキだったんだろうし、「三つ子の魂百まで」と言いますからね!

イタズラ者バンザイ!

というわけで、私たちチーム・マンダラが次に出したアイデア。それは「イタズラ」でした。


http://ja.wikipedia.org/wiki/ジャッカス

すなわち、イタズラ者の、イタズラ者による、イタズラ者のためのSNSサービス。
ちょっと迷惑だけど、でもやっていることは面白い! そんなヤツらを一同に集結し、思う存分イタズラを繰り広げてもらおう、と私たちは考えたのでした。

我々の中に芽生えた共犯者意識のように、退屈な世界をイタズラでぶっ飛ばす、そんな人々もまた共犯者意識によって固い絆で結ばれ、面白い体験を得ることができるのではないか? それこそが私たちのアイデアの核となる考えでした。

もしもアナタがこの危険な香り漂うSNSの会員になりたいと思ったら(もちろん思うでしょう?w)、SNSの既存会員が試験として出したイタズラをして、しかもその証拠(たとえばイタズラ行為の動画)を提出しなければなりません。

もちろん、そのイタズラは法に触れるものであってはならず、しかも多少なりとも他人を笑わせるものであることが重要です。
良いイタズラと悪いイタズラの違いは何か? それは、イタズラされた人が笑顔になれるかどうかですからね。

とまあ、そこまで考えたのいいとして。

「ビジネスモデルは?」

だれかが発した言葉に固まるチーム一同。
うーん、デジャヴュ・・・。

メンタリング

ビジネスモデルはどうするのか。
チームの皆で議論を重ね、出てきたアイデアを検証するために各方面に電話をし、果たしてビジネスになりうるのか確認する。
そんな作業を数時間繰り返しているうちに、あっという間にメンタリングのお時間となりました。

すなわち知識も経験も豊富な先達の方々から、私たちのアイデアについていろいろと意見がいただける訳です。こういう場が用意されているのがStartup Weekendの心憎いところ。前回はボッコボコにやられた感がありましたが、今回もまた、まったく宿題が進んでいないような状態でのメンタリング。果たしてどんな斧を投げられることやら・・・。

チーム・マンダラのメンタリングを担当してくださったのは、GTICの秋山さんとクックパッドの橋本さん。
秋山さんは前回のSWTでご一緒させて頂いた縁もあり、「おー、いらっしゃい!」と気さくに声をかけてくれましたよ。

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※メンターの秋山さん、橋本さんからメンタリングを受けるチーム・マンダラ

ともあれ「イタズラ者のSNS」というアイデアを恐る恐る説明したところ・・・

秋山さん「うん、面白い。やればいいじゃない(笑)」
橋本さん「・・・もはや何と言っていいかわからない」

と、ほぼノーゲーム状態に!(笑)

とくに秋山さんは母校があのMITというだけあって、イタズラにはずいぶんと好意的な様子。
なにしろMITでの学生のイタズラといえば、もはや"歴史"ですからね。
そのとき、秋山さんが話してくれた有名なイタズラがこれ。


※1926年のいたずら。学生寮の上からフォードを吊り下げているところ。

MITの知力も行動力もある学生たちにとっては、こういった手の込んだ、しかも悪意のないイタズラはまさにステータスそのものだったんでしょう。そして大学側もそういった行動を苦笑しつつも許容しているのだろう、と容易に想像がつきます。

かつてのイタズラ好きな学生たちがその後社会に出て、人々をびっくりさせるような仕事をしたのだと考えると、「イタズラ」というものが、なんだかとてもワクワクするものに思えてくるから不思議ですよね。
そして、こういう行動文化を日本に植え付けることができたら、ものすごく面白いと思うんですよ!

それにしても斧が降ってくるかと思いきや、にっこりと「やればいいじゃん♪」だもんなー。いや、さすがに役者が違いますわw
ともあれ、秋山さん、橋本さん。メンタリング、ありがとうございました!

参考資料:
MITのいたずらギャラリー: http://hacks.mit.edu/Hacks/
歴代MIT学生による「素晴らしきイタズラ」の数々: http://wired.jp/2013/03/27/mit-hacks/

世界に広げよう! 「イタズラ者」の輪!

さて「イタズラ」というテーマ。やはり、こいつはクールだ!と確信を深めたチーム一同でしたが、さて、ではどうやってビジネスにしていくのか、という難問に答えなければなりません。

というわけで、チーム内での議論中に出てきたアイデアをざっと書き並べると・・・

・サプライズ企画屋さん
プロポーズ、結婚式、誕生日のパーティといったライフイベントを盛り上げるための、サプライズ企画を売る。
または、大掛かりなサプライズをしたい人向けの、人集めのためのプラットフォームを提供する。

うーん、こうやって文章にしてみると、まったくイケてないアイデアですが、けっこう皆ノリ気で話してたんですよねー。
いやー、β-エンドルフィンって、本当に怖いものですよねっ(しみじみ)。

企画の提供については、すでにやっている企業がありましたが、まったくスケールしている感じがしませんでした。
また方々でヒアリングしたところ、欧米と違って日本の風土的に、結婚式とかでサプライズする人ってあんまりいないんじゃないか、という印象でした。
あと、いまいちインパクトが弱いよねー。

・地方活性化のために、イタズラ祭りを企画する
「イタズラ」という子供じみた行動を、「祭り」という文化行動にまで昇華して、地方活性化に役立ててはどうか、という案。
たとえばスペインのトマト投げ祭り「トマティーナ」なんか傍目から見るとただの子供のイタズラにしか見えませんよね(笑)
しかし、そのトマティーナの開催期間中はその街の人口が二倍に膨れ上がる、という事実を考えれば、イタズラを祭りにして地方活性化に結びつけたときの経済効果は計り知れないものがあります。

あと、それ以外にも

・企業の広告媒体になる

とか、

・教育分野への「イタズラ」の応用

とかいろいろ考えたんですけども、そのアイデアが果たしてワークするのか確証が得られなかったのですよ。

というのも、SWTの開催当日は世間一般は休日中なので、アイデアについてステークホルダーになりそうな人から意見をもらおうとしても、役所、企業など大抵の窓口は閉まっている、という問題があるのです。

つまりは、アイデアを出すのはいいけど、そのアイデアの検証をどうするか?ということもセットに考えないと、時間を有効に使うことができないんですよね。
この辺り、実際のスタートアップでも良く発生する課題ですけども。

その辺りも含めて最終的に考え出されたアイデアが、ずばり、
「イタズラ者を応援するためのクラウドファウンディング」
でした。

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※イタズラ者というと、なぜか想起されるのがこの方。アイデア豊富、行動力抜群、創意工夫をモットーとし、動物にも好かれ、いつも一位を(結果的に)他人にゆずる。うーん、なんだかものすごくいい人みたいじゃないか(笑)

自分がイタズラをする気はないけども、他人がするイタズラはちょっと見てみたい。そう考える人はけっこう多いはず!
そんな人々から寄付を募り、イタズラ者の支援へと結びつける。そして、イタズラ成功のあかつきにはその成果としての動画を寄付してくれた人々へといち早く届ける。
まさに共犯者意識を基盤にした、世にも不真面目なクラウドファウンディングが、今ココにッ!!!(笑)

アイデアそのものの出来はともかく、このアイデアの優れたところは検証方法が簡単なことです。
すなわち、このSWTの終了までに我々が何かのイタズラを考えだし、そのイタズラに寄付してくれる人がいるかどうかを探してみればいいのですから。

さあ、みんなで探せっ! 共犯者っ!!!

ストーリーを語れ!

チームの方針が決まり、検証とMVPの作成に向かって仲間が走り出してから間もなくして、長かったSWTの二日目も終わりを迎えました。
そして、その日の夜、進行役のLeeさんの計らいで、ジャズ・バンド「TAKE*BAND」の皆さんが素敵な音楽を演奏してくれることに。
心地よい音楽が流れる中、次々とビールが手渡され、やや疲れた顔をしていた会場の人々にも笑顔が戻りました。

その後、この日の締めくくりとして、各チームは現在の状況を会場の皆に向けて報告することになりました。
そのとき、Leeさんがつけた注文。それは、チームのただ進捗状況を説明するのではなく、今時点で取り組んでいることを"ストーリー"として語ってほしい、ということ。

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※ビール片手にチームの状況を話す私。背後では、バンドの方が演奏を止めて「何を言っているんだ、コイツ?」とでも言いたげな表情で顔を見合わせているのが何とも印象的です。本当にありがとうございました。

というわけで、ビールですっかり良い気分になった私は、大体次のようなことを話しました。

「私たちのチームは、イタズラ者を応援するためクラウドファウンディングをやります!
 イタズラ者ってのは、たまに迷惑だし、とんでもないバカ野郎でもあります。
 でも世界を変えてきたのは、いつだってそんなバカ野郎だったじゃないですか!
 そんなバカ野郎どもを一人でも多くこの日本に生み出すことが、私たちチームの狙いです!」

まあ、酔いにまかせて大風呂敷を広げまくった感がありますが(笑)
でも、私の言葉に嘘はありませんでした。

私がこのアイデアに触れたとき、興奮を抑えきれなかったのはきっと「イタズラ者=トリックスター」という図式が頭の中にあったからだと思うのです。

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トリックスター

トリックスターって何ぞや?という方はWikipediaに分かりやすい説明があるので、そちらをご参照ください。
ともあれ、トリックスターは物語の中でつねに重要な役割を担い、その行動が物語を進展させ、逆転させ、意外な結末へと導いていく、そんな存在です。彼らはよく途方もないイタズラをして、ヒドいときは世界の終末を招いたり、逆に困った人々を助けたりするんですが、私は昔からこういった登場人物に強い興味を抱いていました。

善玉でも、悪玉でもない。
人々を驚かせ、時には誰もが予想だにしなかった解決法を示し、だまし、笑わせ、カンカンに怒らせ、そして魅了する。
固定化した概念や秩序に"NO"と言い、嘲笑されたり、賞賛されたり。

そんな人々がもっと増えればいい。そうすれば、この世界がもっと楽しい場所に変わるんじゃないのか?
その思いこそが私たちのアイデアの本質です。

でも、じつは私は、そういったクレイジーな人々の一部が、すでに別の呼び名を得て、案外すぐそばにいるんじゃないのか? このSWTの会場の中にもすでに何人もいるんじゃないのか?と思い至って、人知れず感動していました。

彼らがなんて呼ばれているか、だって?
「起業家」ですよ。

次回、三日目に続きます!