IDEA and Players

ベンチャー企業で働く変なエンジニアが勝手なことを書きまくるブログ

Startup Weekendは起業家の夢を見るか? 最終日

前回の続き。

Startup Weekend Tokyo, May 2013もとうとう最終日となりました。
"秘密結社"というコンセプトの元に集結し、さらにそこから"イタズラ者たちが集う場"という着想を得て、「イタズラ者のためのクラウドファウンディング」というアイデアをひねり出した私たち、その名も『チーム・マンダラ』。

いい年をした大人たちが、大マジメに不マジメをやろうと決めてしまったものだから、さあ大変!
ここまで来たからにはもはや後戻りなどできません。
さあ進め、チーム・マンダラ! オレたちに明日はない!(社会人的な意味で )

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※チーム・マンダラの心の葛藤模様。画像はなぜか『フルメタル・ジャケット

というわけで、私たちチーム・マンダラとStartup Weekend Tokyo, May 2013最終日の模様をお届けします。

イタズラと被害者とMac Book Air

さて"イタズラ"というちょっぴり反社会的なテーマをビジネスの中心にすえようとする私たちですから、まずは自分たちでもイタズラをしてみないことには話になりません。

というわけで標的に選ばれたのは、Startup Weekendのファシリテーターのミヒャエルさん。
なんとも迷惑な話ですが、いわばこれも運命。
そう、一度目をつけられたからには、私たちの魔の手からは逃れることができないのだ! ヌハハハハ!

快くイタズラの被害者になってくれたミヒャエル。彼の広い心と素敵な笑顔、そして彼のMac Book Airに感謝します!
なお、イタズラを考え実行した浜松からの刺客こと、ナオさん。その度胸と行動力にも惜しみなく賞賛を送りたい。

ちなみに、ミヒャエルが怒り出したら、ぼくはあなたを盾にして逃げるつもりだったってこと、今さらながらに告白しておきます。
いえい。

イタズラ×クラウドファウンディング=「Trick and Treat」

私たちの考え出したサービス。その名も「Trick and Treat」!!。

ハロウィンの子供たちは「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」と、か弱い大人たちを脅迫して回ります。やっていることはミカジメ料を要求するヤクザと同じですが、きっと可愛い子供だから許されるのでしょう。桑原桑原。

ところで、私たちの場合は「イタズラするからお菓子(現金)をよこせ!」ですからね。さらに身もフタもありません。
しかも、我々のチームは一名の大学生を除いてアラサー、アラフォーの集団。たとえ、どんなに可愛く振る舞って「え〜い、イタズラしちゃうぞ〜(はーと)」と繰り出したとしても、ただ人様の殺意を呼び起こすことになるのがオチ。
うーん、デンジャラス。

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※ハロウィーンの子供たち。同じことを私がやると、きっと警察に捕まります。

まあ、冗談はさておき。

私たちのアイデアについては検証すべき課題がいくつもありますが、その最たるものは何と言っても「いたずらのために人は寄付をしてくれるのか?」という点です。

しかし、前回のブログでも書いたとおりこれを検証するのは簡単。自分たちでイタズラを企画してみて、その企画に寄付してくれる人がいるのかどうか、実際に探してみればいいのですからね。
幸いにもチーム・マンダラには日頃から営業力・突破力を武器に仕事をしている強者たちが揃っています。彼らの力を使い、実際に一口100円で寄付を募って、どれくらいの人が応じてくれるのかを確認することとなりました。

どんなイタズラをするべきか?
みんなでアレコレ考えていると、またもやナオさんが私に言いました。

「タクヤさん、ちょっと自分に考えがあるのでプレゼンの時間を少しもらってもいいですか?」

そう話すナオさんの顔つきはまさにイタズラ好きの少年のそれ。

「1分もあれば十分です。そうしたら、ぼくが会場のみんなに対してイタズラを仕掛けてやりますよ」

へー、どんなイタズラ?と聞いても、ニヤリと笑って「それは実際に見てのお楽しみ♪」としか言わないナオさん。必殺イタズラ仕掛人とは彼のことです。

興味は尽きませんがきっとナオさんなら面白いことをやってくれるはず、そう思い快く承知した私ですが、このイタズラがまさかあのような顛末になるとは、この時の私が知る由もありません。まあ、詳細は後述するとして。

ともあれ、どういうイタズラにするかは各メンバーが各自で考えると決め、さっそく各方面へと走ってもらいました。
すると、なんとわずか数時間のうちに12人から寄付が!

12人×100円 = 1200円

それはコンビニのバイト代二時間分にも満たない小さな金額ですが、検証の手始めとしては大きな成果です。
まー、大の男たちが積み重ねられた100円玉を前に歓声を上げている姿は傍目から見るとどうなんだ?って気もしますが(笑)
しかし、この時点で重要なのは金額の多寡ではなく、実際にお金が集まったという"事実"そのものです。

思い切り乱暴に言うと、後はこれを100万人、1000万人相手にやる方法さえ考えればいいわけですからね。

まー、そう簡単にはいかないのが現実ですが、ともあれ検証の結果にチームの皆が活気づいたのは確か。
このまま最後まで突っ走ったろーぜ!という感じにね。

最終審査!!

前回の記事にも書きましたが、私がSWTに参加した目的は優勝することではありません。私がやりたかったことはこの三日間の体験を通じてひとつのチームを生み出すことです。
とはいえ、この最終審査の体験を抜きに「Startup Weekend」が語れないのもまた事実。

前回のSWT体験では最終プレゼンを頼りになる仲間にお任せしたのですが、今回は絶対に自分でプレゼンするつもりでした。
いや、実を言うと、私はプレゼンが苦手です。しかし、この三日間、私のくだらないアイデアのために力を尽くしてくれた仲間たちに報いるためにも、言い出しっぺが最後にプレゼンをすることで締める、それが筋だと思ったわけでした。

そういうわけで最終日に私が作成したプレゼン資料がこちら。


ずらずらとデータを書き並べるのではなく、なぜ"イタズラ"なのか、私たちのチームがどんな世界を目指しているのか、そういったメッセージを強調したいと思ったのですよね。
優勝が目的ではないにしても、アイデアに込められたその思いは我々にとって真実であり続けました。だから、そこをプレゼンに活かすと決めたのです。

将来のキャリアを危険にさらし、競合調査や動画作成をしてくれた大学生のユーヤさん。
驚異的な行動力の持ち主にして、イタズラの仕掛人、ナオさん。
実直に"誰にとっての価値を生むか?」を常にチームに思い出させてくれたタロさん。
「サービスにインパクトを」を考え続け、多方面に検証に走ったマサヤさん。
たった一人でデモサイトを開発してくれたエンジニアのセッチーさん。
他チームであるのにも関わらず、スライドの素敵な表紙を提供してくれたO女史。
食事時になるとどこからともなく現れ、「え、秘密結社じゃないの?」と言いながらもチームを見守ってくれた妖精オデン。

そんな仲間たちの努力を無駄にしないためにも、プレゼンは最高の物でなければなりません。
何度も何度も練習を繰り返しながらも、本番の刻限が近づいてくるにしたがって、私は自分の心の中で徐々にプレッシャーが高まっていくのを感じていました。

そうこうするうちに時計の針もガシガシ進み、とうとうやってまいりましたよ。
Startup Weekendのフィナーレにして、最後の大舞台。
最終審査。その幕開けでございます。

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※オーガナイザーの皆さんによって整えられた戦いの舞台

この日、審査員を務めるのはこの方々!

渡邊大介
新規事業開発室 プロデューサー/アドマン

奥田 浩美
株式会社ウィズグループ 代表取締役

Yoshihiro Kurashige
取締役 at Netyear Zero, Inc.
http://tokyo.startupweekend.org/から転記。敬称略、原文まま。

審査員の皆様に厳しい視線を向けられながらも、プレゼンに挑むチーム・マンダラの運命や如何に!?

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※プレゼン中の私。「ええ、私が釣り上げた魚はこんなにも大きかったんです!」と言っています(嘘)

プレゼンの滑り出しは順調。練習の甲斐もあって、なんとか淀みなくしゃべることができました。
・・・が! スライドを何枚か進めたところで現れた謎のページ。
な、なんだ!? このスライド、オレ知らねーぞ!?

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※突如現れた謎のスライド。当時は完全に硬直化していて何もわからなかったが、今見ると思わず殺意がわく顔である。

泡を食っている私を尻目に、「みなさん、ありがとうございました!!」と元気よく礼をしてから、何事もなかったように会場を去ろうとするチーム・マンダラのチーム一同(藤井以外)。

ここでようやくナオさんの言葉に思い当たった私です。
くそー、はかりやがったな、ナオさん。なーにが、会場のみんなにイタズラを仕掛ける、だ(笑)。
そう、イタズラの標的はこの私。
1200円の寄付金は、まさにこの目的のために集められたものだったんです。

なお、私のリアクションが少なかったせいで、やらせと思われた方も何人かいたようですが、そのような事実はございません。本当に、まんまとしてやられたんでございます。まったく、なんつー連中だ!(笑)

ちなみに、やらせと思われたことが悔しかったらしいナオさんは
「あー、こんなことならタクヤさんにぐらいつけときゃよかった」
とか申しておりましたよ。
火・・・。

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※審査員から評価を受けるチーム・マンダラ

ちなみに、気になる審査員の方々の反応ですが、

倉重さん「えー・・・もういいや、あっはっは」
奥田さん「・・・はい、ありがとうございました(と、にっこり笑ってマイクを渡邊さんにスルーパス)」
渡邊さん「はい、ぼくもコメントないです(笑)」

と、完全審査放棄。まさにワンサイドゲーム
ここぞとばかりに会場は笑いに包まれ、ある意味、私たちの圧勝でございます!(笑)

あ、そうそう、優勝したチーム・Shakin!の皆様、おめでとうございます!

心より祝福を申し上げますが、まーなんですか、本気で優勝を狙いにいってたら絶対ウチら勝ってたし。
っていうか、サービスのインパクトなら絶対ウチらが勝ってるし。
ある意味、影の功労者なんだから感謝のひとつもあってもいいんじゃないかと、ウチらマジで思ってるし・・・。

・・・はい! 調子に乗りました! ごめんなさい!

「それはビジネスモデルじゃない。ただの企画です」

さて、すべてのチームの審査が終わり、審査員の皆さんが別室へと下がった後、進行役のLeeさんが珍しく厳しい顔つきをしてマイクを取りました。
多少記憶があやふやですが、Leeさんがこのとき話してくれたことをできる限り思い出して書いてみます。

「審査員の皆さんは優しいですね。
 私は思っていることをまっすぐにしか伝えられないので、こういう言い方になるのを許してください。
 あなたがたは何もわかっていません。
 ビジネスモデルが何なのか? それを理解しているチームは、私から見て1チームもありませんでした。
 皆さんがプレゼンしてくれたアイデアはどれも素晴らしかったです。
 でも、それはただの企画です。企画としては素晴らしいけども、ビジネスモデルではありません。
 Startup Weekendでは皆さんは全員が起業家として過ごします。企画をする人ではありません。
 起業家は新しいビジネスを作り出し、それを証明してみせる人です。
 会ったこともないあなたのために、実際にお金を払ってくれる顧客を見つけ出す人のことです」

Leeさんの言葉に思わず静まり返る会場。
さらにLeeさんは、日本以外で、ものすごく優秀な大学生を集めて開催したStartup Weekendであっても、学生たちはやはり企画作りに終始してしまう、という話をしてくれました。

この話を聞いて、じつは、私は少し腹が立ったのです。

私だって、ビジネスモデルを作り出すことが難しいのは百も承知です。
しかし、Startup Weekendで与えられる時間はたったの54時間。コンセプトしかない状態で仲間を集め、議論をし、検証に走り、プレゼンをする。
私たちのチームは文字通り54時間を全力で走り回りました。それはきっと、どのチームも同じでしょう。

その54時間でビジネスモデルが作れていない、と言われればそれはその通りです。しかし、元々そんなの無理に決まってる!というのが私の考えでした。
ビジネスモデルはそう簡単に生まれはしない。それは私がベンチャー領域に移ってきてたかだか数年の経験でも、骨身に沁みて理解していることです。

だからこそ、今回の私は"チーム"を生み出すことを目標とし、その結果、幸運にも素晴らしいメンバーに出会うことができ、またそんな彼らと、可笑しくも楽しい、素敵なチームになることができました。そのことに私は満足していたし、誇りにも思っていたのです。
その成果じゃ足りないのか? だったらどうしたらいいんだ?というのが私の率直な感想でした。

どうしても納得のいかない私は、パーティの途中、機会を捉えて直接Leeさんに疑問をぶつけることにしました。
自分たちはどうすれば良かったのか?
いったい、何が足りなかったのか?

Leeさんの返答は私の想像を超えたものでした。

「そう、(ビジネスモデルを作り出すのは)54時間では確かに難しい。
 でも起業家として行動すれば、54時間でもかなりのことができますよ。
 藤井さんのチームは、イタズラの動画を作りましたね? もしも私だったらそれを使ってすぐにテスト用のサイトをアップします。それだったら1時間くらいで出来ます。次に、そのサイトにアクセスしてきた人を調べ、彼らに連絡をつけるんです。そして、自分たちのサービスに5万円払ってもらうようにお願いする。
 当然、すぐにはお金を払ってもらえないでしょう。でも、『なぜ払うことができないのか?』、その理由を直接聞くことができるでしょう。
 あるいは、お金を払ってもらえなくても、あなたの考えに共感してファンになってくれるかもしれない。
 もしかしたらその人は投資家で、あなたを様々な形で応援してくれるようになるかもしれない。
 そんなちょっとしたキッカケからスタートアップはどんどんブーストしていくんですよ。
 そのために行動する、それが起業家というものです」

この言葉を聞いて、恥ずかしながら、私はやっと、startupweekend.orgのサイトに書かれているキャプションの意味と重さを理解したんですよね。

『No Talk, All Action.
 Launch a Startup in 54 Hours.』

そう、私たちはあまりに話しすぎ、そして、あまりに行動しなさすぎでした。
いや、実際は、自分たちではけっこう"行動"しているつもりでいたのですよ。Startup Weekend Tokyoの会場内で他の参加者にインタビューしたり、街頭に出てアンケートをとってみたり、あちこちに電話してみたり。

でも、その量と質は、たとえば別チームの『シャッター通りに屋台を開く』というアイデアに対して、Leeさんが「私だったら300万くらい使って実際に店を開いてみます。そして3時間くらい営業してみてデータを取り、次のアクションを考えます」と言うときの"行動"と一緒ではないのは明らかです。

Leeさんの言葉を聞いて、私は『起業家』というものが、あまりにも自分とはかけ離れた遠い存在に思えて、正直呆然としてしまいましたよ。というのも、そんなふうに発想して、行動すること自体、そもそも普通の人にはとても異質でハードルが高いことのように思えたからです。

そんな私の気持ちを察してか知らずか、続けられたLeeさんの言葉が非常に印象深いものとなりました。

「もちろん最初から誰でもそんなふうに行動できるわけじゃない。そんなふうに行動できる人はごく一部の天才だけです。
 でも、私は、誰だって訓練さえすれば、そんなふうに行動できるようになると思っています。
 普通の人々を起業家に変える。それがStartup Weekendのやりたいことなんです」

Startup Weekendというストーリー

そんなこんなで、興奮と熱狂に満ちた夢のような三日間が終わりました。

私は実際にスタートアップに参加したこの数年の経験から、このStartup Weekendで過ごす三日間はいろいろな意味で特別なものだと感じるんですよね。
SWTでの体験は、実際にスタートアップ企業が経験するものとはかなり異なっています。と言うよりは、スタートアップの"良い体験"だけを凝縮している、と言った方がいいかもしれません。そこでは、延々と続く赤字のグラフや、株主とのモメゴトや、怒声を張り上げるチームメンバーに頭を悩ませる必要はありませんから。

もしかしたら、Startup Weekendの体験を通じて実際に起業するチームが、最初に経験する挫折は、自分たちのスタートアップがまるでStartup Weekendのようではない、という現実かもしれません。

だけども、人生が映画とまるで同じではないから、と言って、生きることの意味がなくならないのと同じように、Startup Weekendのようではないからと言って、スタートアップという生き方が価値を失うことはないでしょう。

自分の手で価値を生み出したい、この世界を変えてみたい。
そんな情熱を持つ人々に共感し、賞賛し、その挙げ句に、そこに立ち会ったごく普通の人々を起業家へと変えていく。
それがStartup Weekendという物語の機能なんだろうな、と元小説家志望らしく私は考えるのですけどね。

あれ、でも、それってスタートアップというムーブメントそのものじゃね?
世界って物語だったんですよ、旦那。

まーともあれ。
今、こうしてブログを書きながら思い出してみても、本当に楽しい三日間でした。
※しかし、ブログを書くのが遅すぎてこれを書いている時点で、すでに一ヶ月以上も時間が過ぎてしまいました・・・。反省・・・。

この素晴らしい体験を提供して下さったSWT関係者の皆様、チーム・マンダラの仲間たち、参加者の方々、そこにいたすべての人に感謝を捧げます!
ありがとうございました!!

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※チーム・マンダラの仲間たち(終電に間に合わない!とダッシュしたナオさんと、仕事の締め切りが近かったオデンさんを除く)